哲女のメモ 6

    #1 音楽天使が泣いている

    心の扉の中へすべり込みさえすれば
    もっと祈りにふさわしい場所が
    見つかるかもしれないのに
    君はつぶやく 世界が始まって以来一度だって
    これまで見てきた人々の栄光が
    長続きした例はない、と
    : Don't Look Back in Anger

    わたしの時間がいつも余計なもので埋められている。
    仕事や何やらで、音楽を聴けないっていうことほど、とても辛いことはない。
    もうそれだけで気持ちが鬱積して、明るさも失せてしまう。
    時々、メトロポリスの喧騒が恋しくなるばかりではなく、むきだしの感情や焦燥さえ愛しくなる。感性がゆるみ、何も感じない。未来が信じられない。

    音楽天使がうつむいて涙を流している。
    そんなイメージが脳裏に浮かんでは消えて、自分の像と重なる。
    オアシスを聴きながら、わたしのオアシスはどこにあるの?と思う。

    オアシスも15年のキャリアを積みながら、分裂し、別れた。
    ラストアルバム、08年の<Dig Out Your Soul>を聴きながらオアシスの軌跡を振り返ると、この下品で口汚くののしり合う品性から、どうして宝石のような曲が紡ぎだされるのか不思議な気持ちになります。
    しかし、デビュー当時の瑞々しい感性は次第に失われ、新しい挑戦に限界を感じさせるようになったことを、評論家やリスナーは気づいていたのだろうか? 
    サウンドの端々から、悩み苦しむ姿を感じていたのだろうか? 
    創造の神は、簡単に祝福してはくれないし、とても気まぐれなことを知っていたのでしょうか?
    音楽の深化は内面の深化に直結する。変わらないものを持つことも大切だけれど、表現の幅を広げていくことも大事なこと。テクニックというより人間的な深さが音楽を普遍たらしめる。心に残る美しい一曲に出合いたい、名曲に癒されたい、という思いは、特に彼らを聴くといつも感じていたことなのです。
    ギャラガー兄弟の美意識と音楽感性は、国民的ヒーロー・ビートルズという普遍的音源によって育まれたものだろう。オアシスを聴くたびにビートルズのことを考えてしまうのは仕方がない。音楽的アプローチはとてもオーソドックスです。アルバムのファーストソング “Bag It Up” などはもろにビートルズ・エッセンスが感じられる。彼らのイマジネーションは、ビートルズの微笑みと呪縛から成り立っているように思えます。
    ファースト・アルバムがわたしは余程好きです。彼らは1作目で頂点に達したかのようです。それにしてもリアムのソングライターとしての才能を改めて確認しました。曲によっては、ジョン・レノンそっくりの歌い方。素晴らしい。声質が同じなのかな。

    野心的で新奇さを装うロックのあり方に、時々懐疑的な思いを抱くときがあります。今はあらゆる形式、様式が飽和状態にあるように考えます。しかし表現は極限の美と原理を追求するために、飽くことなく挑戦する宿命を持っている。この混乱からはまた、優れた音楽や思想が現れるかもしれませんが、重い装飾を脱ぎ捨てたところで、芯になる純粋な音楽が現れるとは限りません。単純に原点回帰と言われても無理というものです。
    大切なことは、自己と世界の関係を洞察した深い見識のなかで、自由な精神を創造することに他なりません。感動する心が最も大切なのです。
    現在のロックシーンは、過度に饒舌でありながら、空虚な音に満ちており、わたしを含めてリスナーは飢餓を味わっています。いつも腹を空かして彷徨っています。そんな不幸な深いキリのなかにあっても天使は微笑む。優れた天才に音楽の信仰をもたらし、調和を授けようとします。音楽天使(Music Angel)は慈悲深くもあり、でも他人のように素っ気ない素振りを見せて、アーティストに涙を流させるときもあるのです。

    <オアシス>とはときには皮肉めいた名前です。彼らが本当に、心の砂漠のなかのオアシスになろうとするのであれば、繊細な感受性と直感、魂の柔軟さと孤独に耐える力強さを持って、欺瞞と乱雑さに覆われた現実を、天使の羽根で吹き払わなければならなかった。彼らは自分のその使命を自覚していたようには思えない。ののしり合うヒマに、もっと自分を見つめて、音楽の豊穣な湧水に手を入れて欲しかった。

    7枚目のオリジナル(Dig Out Your Soul:2008)には期待もあっただけに、聴いた瞬間、その凡庸さに失望しました。残念至極。ロッキング・オンでは08年のベスト・アルバムに選ばれましたが、その選考基準には大変懐疑的にならざるをえませんでした。もちろんアベレージは高くても、彼らはあきらかに滞っているということを評論家が指摘しなかったのは、本当に音楽を聴いていたのか疑わしい。
    ビートルズをリスペクトするのであれば、現在のロックシーンを変革する困難な道を歩んでもらいたいと、期待しましたが、大いなる間違いでした。真のロックは鳴り響いていない。普通のロック生活人に満足している。何を選択するのも自由ですが、セレブってそんなに心地良いものなのでしょうか?
    音楽は社会の接点なしでは成立しえません。変化せざるをえない音楽に時代的な真実性を持たせるためには、失われない自分自身と変化を受容する能動的な姿勢が大切です。変化し、上書きし、リセットする。バンドの発展はこの方程式につきる。

    クラシック・ロックの貴重なポテンシャルとポップ・エッセンス、記念すべき94年にファーストをリリースしてから15回もの季節を重ねて第一線に君臨し続けたエネルギーとテンション、ロックへの渇望をエモーショナルかつ斬新に表現したオリジナリティー。どれをとってもグレートな珠玉のパフォーマンスです。だからこそ言いたい。ただ一直線にロックの核心へ切り込んでほしかったと。でなければビートルズは超えることができないと考えたからです。

    ロックの初期衝動は、本質的であるからこそ、簡潔で美しく刺激的です。直観的に矛盾した世界を把握する。そしてたとえ自分が血を流しても一矢を報いるのです。

    その大切なスタンスとロック・スピリットを忘れていると、わたしには思えてならなかったのです。彼らのプロデュースをしたい。報酬もいらない。

     “Don't Look Back in Anger” では冒頭の詞を受けて次のように歌う。

    君が辿り着きたい場所へならどこでもお供するよ
    誰も踏み込んだことのない魔境であろうと
    夜であろうと昼であろうと
    でも頼むからロックンロール・バンドなんかに
    君の人生をゆだねたりはしないでくれ
    自分にさえ責任が持てない奴らに


    示唆に富む歌詞ですね。
    ロック野郎が世界を変えることに、いつの時代でも保守的な世代は抵抗する。
    ロック野郎は蔑まされるのです。

    音楽天使は誰の肩にも乗っている。
    わたしの天使は、寂しい顔で涙をためているけれど
    きっとまた優しい風が吹いてくれるさ。
    今は羽根を休めているだけ。


    #2 伝説のギタリスト

    ロックの天使にキスをされ、恋をしてしまったわたし。
    おもに60年代から現在まで聴かなければならないアルバムが山ほどあって、アーティスト名やタイトルだけは知っていても、未聴というアルバムもたくさんあったりして、これから10年位は掛かるのではないかと考えたりしてるのです。気が遠くなりそうです。

    この超有名なアルバムを取り上げるのは、諸先輩の皆さまからすれば今更何だと意見されそうで恐いのですが、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(SRV)、伝説のギタリストのデビュー・アルバムを始めて聴きました。以前から気に掛かっていたのですが、なかなか聴くチャンスが巡ってこなかったのです。

    1dec2020-st.gifStevie Ray Vaughan <1954~1990>
    古い時代のハリウッド・スターのようなブロマイド。
    モテそうなナイス・ガイ。迷いのないすっきりした知性、澱みない感性、優しい目と意志の強さが眉と鼻筋にうかがえます。男らしい豪快さもあわせ持ってるようです。

    <Texas Flood>1983
    1. Love Struck Baby
    2. Pride and Joy
    3. Texas Flood
    4. Tell Me
    5. Testify
    6. Rude Mood
    7. Mary Had a Little Lamb
    8. Dirty Pool
    9. I'm Cryin'
    10. Lenny
    11. SRV Speaks
    12. Tin Pan Alley (AKA Roughest Place in Town)
    13. Testify [Live]
    14. Mary Had a Little Lamb [Live]
    15. Wham! [Live]

    彼のサウンドは文句なくカッコいい。たった3日間のレコーディングで、すべてを終えたという。ヘビーゲージを張った、ストラトキャスターからしぼりだすアグレッシブな力強いトーン、情感に満ちたサスティン、肉体の一部と化した愛器からはチョーキングやビブラート、繊細でいながら荒々しく、情熱的なドライブ感とサウンドの厚みは、ブルース・ロックの美しさを体現しています。ブルースをベースにしたインプロビゼーションは、創造力を実現するスキル。才能と絶え間ない挑戦からもたらされたこのアルバムは、昼も夜もギターとともに過ごした、ギターを弾くために生まれてきた天才の結晶です。

    1曲目から虜となりました。エレクトリックの何と豊かな響きでしょう。ただ電気回路を通しただけなのに、一音一音が際立ちストラトに魂が宿っている。SRVと輝かしくアピールしているギターのキズの一つ一つまでもが渾然一体となって、主人の思うがままに音を出している。ギターは彼の分身。寝ている間も夢のなかで弾いていたのだ。そうでなければこれほどまでインスピレーションに満ちたプレイを展開することはできなかっただろう。
    ベースのTommy Shannon、ドラムスのChris Layton とのあうんの呼吸は3ピース・アンサンブルとして最高のものです。場数を踏んで得られた同志のような結束でしょう。またライブで鍛えられたスティーヴィーのヴォーカルも抑制が効き、派手さはないけれど鐘と祈りのアンジェラス<Angelus>のようにブルースにフィットしたもの。この完璧さはロバート・ジョンソンと同じように悪魔に魂を売り渡したことのサジェスチョン(暗示)なのだろうか? そんな非現実的な疑いさえよぎるのです。
    とにかくすべてが素晴らしい!

    塗装が剥げ落ち、汗がしみ込んだ彼のギターは、ブルースと格闘した人生そのもの。
    35才という若さで旅立ったテキサス・カウボーイは、ギターとともに伝説となった。

    ギターゴッドが勢ぞろい!
    ブルースの名曲<Sweet Home Chicago>
    Eric Clapton, Stevie Ray Vaughan, Buddy Guy, Jimmie Vaughan, Robert Cray
    プレイヤーもオーディエンスもミックス状態。
    哲学者の風貌で全体を見ているクラプトンの姿が印象的。



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