出発のためのダイジェスト ⑧

    Avatar & Queen 2010.5.5
    構想14年、製作に4年以上の歳月をかけて完成させたラージスケール・ムーヴィー。
    宮崎駿作品・「ラピュタ」「ナウシカ」からの影響が明らかで、アカデミー賞が取れなかった理由がわかったような気がしました。

    それでも情報量の大きさ、密度は相当のもの。ヴァーチャル・リアリティーの異次元体験は、圧倒的に感覚を麻痺させる。テーマもまた大規模作品に相応しく、資源枯渇、生態系の破壊、搾取と圧政、知性の限界、他者を理解することの難しさを異界の動植物の動きや色彩を通し、細部まで緻密にリアリティーたっぷりに描き出す。3D映画を気軽に見ることができるようになった技術的進歩は、映画史の流れのなかで、一つの重要なエポックになりそうですが、ハリウッドだからこそできた映画でもあります。
    見知らぬ世界で、どこかの天体でなくても、この地球上で、全く違う考えのなかでの共生の仕方を学ぶ、アサーショントレーニングに使える教材になるかもしれません。
    残念なのは、悪役キャラクターの造形が平均的であり、凡庸なこと。善の善良さは悪の凄みに支えられている。
    <エンターテインメントでありながら教訓に満ちている>
    キャメロン監督の映画手法は、精巧な仮想現実を想わせるプレゼンによって、わたしたちの想像力が果てしがないことを感じさせてくれる。
    映画に一つの伝説が誕生したと言うのは大袈裟だろうか?
    宮崎駿監督は、無国籍・インターナショナル・未来次元の世界観を持っていた「ナウシカ」「ラピュタ」から、自分のアイデンティティーを訪ねるかのような、日本文化の根源への傾倒を果たしていくけれど、わたしは深い問題意識も垣間見れる初期作品の深化ルートをたどっていただきたかったという思いもあります。その後の作品は、大衆性を獲得すると同時に、オリジナル性が次第に薄れていったように思われます。個人的には、『シュナの旅』をアニメ化してくれていたらと思います。飢餓や食物貧窮、戦争、環境問題といった喫緊の重要なテーマ設定が可能であり、ジブリ作品の集大成にもなるような気がします。
    苦難によって希望を失い、人間の不思議な巡り会いによってやがて再生を遂げていく。有史以来の永遠に変わらないテーマです。宗教もこの原理の応用と亜流の適用かもしれません。


    Queen Legend
    クイーン伝説は、音楽への夢を持った青年たちのサクセス・ストーリーというだけでなく、喜びや悲しみ、希望や失意といった誰でも遭遇する人生の試練に打ち勝った力強さが感じられます。そして楽曲の素晴らしさと、フレディの早過ぎる死によって、ロック史の1ページを飾るものとなりました。

    ヨーロッパ芸術の底辺に流れる奥深いファンタジックな物語世界の継承者。クイーン・サウンドは、優雅さと華麗さにおいてヨーロッパ的であり、旋律の美しさにおいて比類がありません。彼らは現実と仮想の狭間にクイーン・ワールドを築きあげました。
    セカンドアルバムは、善と悪、天上と奈落、清純と俗悪といった苦悶するアンビバレントな感情に一筋の光明をもたらし、神と暗黒世界に向けての渾身の一撃でもありました。それはまたドラマティックな構成と高純度のロック的要素に彩られて、かつてない感動をもたらすものだったのです。

    31ql-031.jpg"Queen Ⅱ" 1974
    漆黒の闇に浮かび上がる秀逸なジャケット・アートワーク。
    夜を支配する君主、魔法使い、鬼、モンスター、悪魔、神。
    クイーン美学のキーワードは、いくつも見うけられる。ハードロックの基本を踏まえつつ、急展開の構成、独特のコーラス・ワーク、ギター・オーケストレーション、圧倒的な存在感のヴォーカル。
    混沌、喧騒、非現実的なダークな世界、奔放な神業、大胆不敵・鮮烈なアレンジ、物悲しく響くピアノのリフレイン、エモ-ショナルなフレーズ、転調また転調。嵐のようなクイーン・サウンドは純粋な胸躍る音楽体験とエクスタシーが具現化されています。
    ヨーロッパの伝統を継承したファンタジック・ロックが誕生したのです。

    ちょうど100年前。
    <Richard Wagner> リヒャルト・ワーグナーはロマン派の頂点を極めるのでした。

    ワーグナー 楽劇《ニーベルングの指環》全曲 [DVD]
    バレンボイム/バイロイト祝祭劇場管弦楽団トムリンソン(ジョン)
    ......Wikipedia.....『ワーグナーはまた、楽劇とよばれる独特のオペラで作品の大規模化ももたらした。最初の楽劇である『トリスタンとイゾルデ』(1859)は、ただ単にオペラを革新したのみならず、その革新的和声語法は調性の崩壊へと道を開いた意味で、西洋音楽史全体から見ても非常に重要な作品である。
    より重厚な響きを求めて大編成化したオーケストラに歌唱が埋没せぬよう、聴衆が舞台のみに集中して鑑賞するように、彼は自分自身の作品を上演する専用の劇場を必要とするに至り、バイエルン王ルートヴィヒ2世からの資金援助を受けて、オーケストラ・ピットを舞台の下に押し込めるという特異な構造の劇場をバイロイトに建設した。そこで上演される『ニーベルングの指輪』(1854、1856、1871、1874)は4つの楽劇に分かれた巨大作品で、4夜を費やして演奏される。これを通して観ると約15時間程になり、空前絶後の大規模作品である』


    51eGYuY-971.jpgワーグナー:「ニーベルングの指環」管弦楽曲集
    ショルティ(サー・ゲオルグ)
    ワーグナーは天才にありがちな奇行が目立った人だったらしい。しかし26年の歳月をかけて完成した『ニーベルングの指輪』は彼のライフ・ワークでもありました。

    Wikipedia から引用します。
    『当初は北欧神話の英雄であるシグルズの物語をモチーフとした「ジークフリートの死」として着想したが、次第に構想がふくらみ現在の形となった。
    物語のスケールと領域は叙事詩である。全世界の支配を可能とする魔法の指輪をめぐる、神、英雄、神話上のいくつかの生物の戦いの物語で神々の黄昏、天空の城ワルハラの炎上、地上のラインの洪水まで、ドラマと陰謀は、ウォータンの支配する天上の神々の世界で、地上の人間界の世界で、地下のニーベルング族の住むニーベルンクハイムで、3世代にわたって続き、最後に神々の世界の灰から真の愛がよみがえる』


    文学ではトールキンの「ホビットの冒険」(1937年)、1954年から1955年にかけて、最も有名な作品となる叙事詩的小説「指輪物語」が上梓されました。近年、映画化されて大ヒットとなったことはよく知られていますね。
    北欧神話に題材をとったこれらの血沸き肉踊るスペタクルな物語は、ファンタジックな芸術を代表するものです。ヨーロッパの伝統的な奥深さ、神秘な力を形作るものでもあります。

    クイーンのロック・オペラは、このヨーロッパに伝わる異世界、人間界とは全く異なる宇宙を創造した神話、幻想芸術の系譜に連なるものです。
    このセカンドアルバムはアナログ盤では、
    <A面をホワイト・サイド M1~M5・B面をブラック・サイド M6~M11>
    A面からブリテッシュ・ハードロックの伝統をふまえ、B面では刺激的でスピーディな流れのなかでロックの多様性を実現、クイーン美学に貫かれています。絶妙なコーラスは不滅の美しさに満ち、フレディの哀切極まりないヴォーカルもまた切々と胸に響いてきます。このアルバムを聴くことによって、クイーン世界を共有できる喜びと興奮を感じることができます。圧倒的なクイーン・サウンドの奔流にひれ伏すよりありません。

    415Bl-0341.jpg"A Night at the Opera"・このアルバムをロックの名作と言わずして何を名作というのだろう。
    創造と破壊、オリジナリティーこそ芸術の真骨頂です。
    彼らは勝負をかけたのです。
    歴史に名を残すために、じっくりと練りに練ってチューニングし、過去を壊して再構築しました。それはあらゆる音楽スタイルを敵にまわした挑戦者に、創造の女神が降誕した瞬間でもありました。
    性急に展開する万華鏡のような音は騒々しくもドラマチックに、ロマンティックに、あらゆるものを飲み込んで頂点に達しました。
    新しいものを生み出す創造の小槌は、ただ一人に、選ばれた一人に、芸術の神から与えられるものです。

    41Din-0761.jpgクイーン・サウンドの集大成とも言えるこのアルバムは、4人が渾身の力で作り上げたロックの金字塔であることをまず最初に知らなければならない。
    彼らが“戦慄の王女”(1973) から18年の航海をして行き着いた港が、 "INNUENDO"
    深い霧と嵐を乗り越えてたどり着いたパラダイスだったと、わたしはあえて言いたいのです。そこはフレディの魂が宿り、クイーン船が到達した音楽の陶酔とも言うべき秘境だったのです。

    クイーンを聴くたび、もしもフレディが生きていたら、オリジナルメンバーのバンドが存在していたらと思ってしまう。
    彼らがクイーンというバンド名を名のり、デヴューを果たしたことは、運命づけられた歴史に相違ありません。
    もしもいつの時代にも愛され、親しまれる曲があるとすれば、それは楽曲の良さが決定的な要因です。華麗でドラマティックなクイーンの楽曲は魅了して心を震わす。
    フレディが生きていたら、クイーンが存在していたら、嵐の海を渡るロックの船がたどり着く港が、今まで誰も寄港したことのない港だったかもしれない。

    オリジナルの4人でラスト・アルバムとなった "INNUENDO"。
    このアルバムが、クイーンの終焉になるだろうということをメンバーは知っていました。
    エイズに冒されたフレディには時間が残されていなかったのです。
    「死」が身近なものとして、いやクイーン流に言えば、死神が手を伸ばして、誰もが聞こえる大きな音で扉を叩いたのでした。
    わたしたちの「生」は「死」を前提にしたカウントダウンです。
    「死」に向かって「生」を消費しているのです。
    「死」を考えた者が「死」は逃れることができないと観念したとき、何をするだろうか?
    無為にただ人生を嘆くだろうか?
    嘆くだけでは敗者の人生です。

    ただエンターテイメントとしてのスターであれば仮面は剥がれる。
    フレディは燦然と輝く大きな星です。
    ライヴのステージ、スポットライトに浮かび上がる姿にファンは歓喜しました。
    サウンドの要であったフレディがいればこそのクイーン。
    そのフレディにひたひたと確実に「死」の影が押し迫っていました。
    フレディは、遥か彼方のパノラマのような「生」の劇場を眺めていたかもしれない。
    「残すべきものを残そう」
    「自らの命を普遍的なロックの物語に昇華しよう」
    「死は恐るに足らず、生こそ問題だ。たとえわずかな時間より残されていなかったとしても」
    フレディの胸には、数々の人生の難問が去来したと推測してもおかしくありません。
    スターである前に人間だからです。
    他の3人もフレディの心を知っていた。
    すべてを注ぎ完成した "イニュエンドウ" は力に溢れていました。
    人間に限らず「生」あるものへの賛歌と励まし。不安と苦痛を超えて生き抜くための勇気のメッセージ。
    「死」という観点からアルバムを注意深く聴けば、光のなかではすべてが明らかになるように、アルバム創作の秘密が解る。フレディの、しいてはクイーン全員の心の軌跡と葛藤をあらわしていると考えるのです。
    「死」ほど重要なことはないからです。

    生から死へ、死から生へ。鉄壁の法則に従って流転する命あるもの。
    クイーンは時代を映す鏡として、時代を越えた永遠の命を与えられて蘇えるだろう。


    Bohemian Rhapsody



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